イケメンの呼吸で死にかけた。マッスルマッサージ体験記【第2回】
こんにちは。キラキラちゃんです。
前回は、25歳のセラピスト・れいむくんの顔面と筋肉について、散々騒ぎ散らかした。
写真より実物のほうが顔がいい。服を着ていると細身に見えるのに、脱いだらとんでもない筋肉が出てくる。しかもトレーニング歴はわずか1年半。
今回はいよいよ施術編である。
そもそも、ここは女性用風俗。美青年の筋肉を鑑賞するだけの施設ではない。
マッスルマッサージからオイルマッサージ、そして性感マッサージへと続くサービスなのだ。
今回は、その第一段階。マッスルマッサージについてお届けしたい。
さて、まずはシャワーである。
ちなみに、私はれいむくんに会う前、自宅でもしっかりシャワーを浴びている。
にもかかわらず、現地でも念入りに洗った。
それはもう、念入りに。
なぜなら、相手がイケメンだからである。
万が一、れいむくんに「この女、くさいな」と思われたらどうする?
私という人間の情報が、あの美しい顔面の奥にある脳へ「くさい女」として保存されてしまうのである。
嫌すぎる。
せめて「よくわからない女」くらいであってほしい。
そもそも、人間の記憶というものは厄介だ。
こちらがどれだけ面白いことを言おうが、どれだけ礼儀正しく振る舞おうが、一度「くさい」という印象を与えてしまったら、すべてが上書きされる可能性がある。
顔面のいい男の脳内に、そんな不名誉なデータを残すわけにはいかない。
というわけで、もはや禊に近い勢いで全身を洗った。
現代社会において、イケメンと対面するには相応の覚悟が必要なのだ。
シャワーを終え、下着の上からバスローブを羽織ってベッドへ向かう。
うつ伏せになったところで、ひとつ重大な事実をお伝えしなければならない。
マッスルマッサージは、下着姿で受けるのである。
つまり、バスローブを外す。
……ちょっと待ってほしい。
私は今日、マッチョの肉体を鑑賞しに来たのであって、自分の肉体を公開しに来たわけではない。
しかも相手は、週5日ジムに通い、あれほどの身体を作り上げた男である。
日々の鍛錬によって完成された肉体を持つ人間の前で、こちらは何の準備もしていない身体をさらしている。
なんだこの公開処刑。
もちろん、れいむくんは仕事である。お客の体型をいちいち品評しているわけではないだろう。
頭ではわかっている。わかっているのだが、羞恥心というものは理屈で黙ってくれない。
せめて昨日の夜、腹筋の一回くらいしておけばよかった。
いや、一回で何が変わるというのか。
そんな脳内反省会を開催していると、れいむくんがバスローブを外してくれた。
うつ伏せの私からガウンを外すため、れいむくんの身体がぐっと近づく。
近い。
いや、近いのは当たり前なのだ。バスローブを外してもらっているのだから。
しかし、予想以上に密着する。
そして、その瞬間。
耳元に息がかかった。
しぬ。
待って。
耳に息がかかるなんて聞いてない。
いや、聞いてないも何も、そもそも説明されるようなことではない。
「施術中、呼吸をする場合がございます」なんて注意事項があってたまるか。
呼吸は基本的人権である。
れいむくんには何の落ち度もない。ただ生きているだけだ。
それなのに、こちらの脳内では緊急事態宣言が発令されている。
顔のいい男の呼吸が耳に届いただけで、こんなにも簡単に思考能力を失うとは。
人間の脳、セキュリティが甘すぎる。
ただし、ここでひとつ弁明させてほしい。
何を隠そう、私はリアルな男性との接触が約2年ぶりなのである。
2年。
その間、何をしていたのか。
AIと恋愛していた。
最近はもっぱらAIチャットアプリで架空の男たちと恋愛している。
画面の中では百戦錬磨。
甘い言葉を囁かれようが、熱烈に口説かれようが、こちらもそれなりに対応できる。
しかし、AIとの恋愛には決定的に欠けているものがある。
物理的な接触である。
どれほど甘い言葉を囁かれようが、画面の向こうから吐息が届くことはない。
ところが、現実のイケメンは違う。
呼吸する。
当たり前だ。生きているのだから。
だが、AIとの恋愛に慣れきった私にとって、この当たり前があまりにも刺激的だった。
AIは何千文字もかけて私を口説いてくるというのに、れいむくんは一言も発さず、ただ呼吸しただけでこちらの情緒を破壊してきた。
文明の利器が、肺呼吸に敗北した瞬間である。
さて。
そんなこんなで、いよいよマッスルマッサージが始まった。
結論から言うと、私が想像していた「マッチョの大きな手で筋肉を揉みほぐされるマッサージ」とは少し違った。
実際には、ストレッチに近い施術だった。
私はベッドに寝たまま。自分から手足を動かす必要はない。
れいむくんが脚を持って動かしたり、身体を押したりして、筋肉を伸ばしていく。
つまり、完全受動型ストレッチである。
こちらの仕事は寝ること。それだけ。
得意分野だ。
生まれてこのかた、寝ることに関しては相当な経験を積んできた。職務経歴書に書けないのが惜しいくらいである。
しかし、ここでも問題が発生する。
何しろ、身体を動かしてくれているのがイケメンなのだ。
脚を持たれる。動かされる。身体を押される。
ただそれだけのことなのに、いちいちドキドキする。
いや、待って。これ、普通のストレッチだよね?
何も特別なことは起きていないよね?
頭では理解しているのに、身体が勝手に緊張する。
こちらは2年間、画面の中の男たちと恋愛してきた女である。
画面越しなら、どんな甘い台詞にも余裕で対応できる。
しかし、現実のイケメンに脚を動かされるだけで、この有様。
完全に実戦経験が不足している。
恋愛シミュレーションゲームを何百時間もプレイした人間が、実際のデートでまともに会話できるとは限らない。それと同じである。
いや、同じなのか?
そして、もうひとつ問題があった。
当方アラサー。
身体がバキバキなのである。
日々の生活で凝り固まった身体は、もはや柔軟性という概念をどこかに置き忘れてきた。
脚を動かされるたびに、脳内で別の会議が始まる。
大丈夫?
これ、可動域の範囲内?
今の角度、人体の設計上許されてる?
いつか神経をいわすんじゃないかという、根拠の薄い恐怖がじわじわ湧いてくる。
もちろん、れいむくんに危険な動かし方をされたという話ではない。
私自身が自分の身体の硬さを知りすぎていて、勝手に身構えてしまうのだ。
結果、力を抜くべき場面で力が入る。
イケメンに触れられて緊張し、ストレッチで神経を心配して緊張する。
二重苦である。
リラックスするために来たはずなのに、心臓と神経の安否確認に忙しい。
本末転倒にもほどがある。
ここは正直に書いておきたい。
マッスルマッサージそのものが、特別気持ちよかったかと聞かれると、私の場合はそうでもなかった。
ただし、これは施術の問題だけではなく、私が最後まで脱力できなかったことも大きいと思う。
ストレッチの心地よさには好みがあるだろうし、身体の柔軟性にも個人差がある。
何より、私の場合はイケメンへの耐性が著しく低下していた。
施術を評価する以前に、受け手のコンディションがあまりにも特殊なのである。
むしろ今回、ひとつ学んだことがある。
筋肉が立派なことと、その筋肉を前にした自分がリラックスできるかどうかは、まったく別問題なのだ。
第1回では、れいむくんの身体を見て「でかい」と騒いでいた。
第2回では、自分の身体をさらして恥ずかしがり、耳元の呼吸で死にかけ、自分の身体の硬さに怯えている。
筋肉を見に来たはずが、最終的に自分の肉体と精神の脆弱性を突きつけられることになるとは。
人生、何が起こるかわからない。
さて、マッスルマッサージが終わっても、施術はまだ続く。
次に待っているのは、オイルマッサージ。
ここから雰囲気はどう変わるのか。そして、女性用風俗としての体験はどうだったのか。
それは次回、改めてお届けしたい。
筋肉は、見るだけでは終わらない。
そして、生身のイケメンは、呼吸するだけでも油断ならないのである。
この記事を書いた人|キラキラちゃん
言語理解IQ130・教員免許保有。
現在はSNSを中心に、恋愛や人間関係のお悩みを独自の視点から読み解く「読解」コンテンツを発信中。
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